カルテの裏側
ワクチン普及のすがた
2021年07月18日
先日の深夜、ゴーっという音で目が覚めた。それは、ずっと続いていた雨が豪雨となったための音であった。まさか、家が壊れるのではないかと不安が胸をよぎった。気がついたら停電していて、雷がしきりに鳴っていることも相まって、寝られなくなってしまった。真っ暗な中、灯りを持って、部屋や廊下から家の周りを点検したところ、テラスの屋根から滝のように雨が落ちていた。停電は、1時間以上に及んだとあとで聞いた。私はというと、不安を抱きながら横になっていたら、寝てしまったようだ。
朝起きて点検もそこそこに、仕事場に行ったらファックスが届いていた。市役所健康・長寿課から、「停電によるワクチンの取扱いについて」と題して、停電が1時間以上となったため、冷蔵庫に保管しているコロナワクチンの品質管理に影響があることから、回収、廃棄するということを旨とした文章だった。ワクチンを新たに配送することや、解凍時間のことなども詳しく書かれていた。このファックスを読んだ時点で、このところ、医院でのワクチン個別接種や自治体での集団接種を行なうため、あわただしい毎日だったことを思い出した。しかし、私は停電がワクチンに影響あることまでは、思いが至らなかった。
ファックスは、2名の職員の連記で、実に早朝5時35分の送信時間であった。職員は確か、最近まで育児休暇を取っていて、目下公務だけではなく育児にも忙殺される毎日ではないかしら。そんな中で、廃棄しなければならないワクチンが、そのままでは住民に不利益となることを察知し、各医療機関に早朝送信したのである。私は、ファックスを手にしながら、その行動の重みを思った。
いまは国からのワクチン供給が滞っているものの、最近まで一日100万回接種することを自治体に伝達し、実際そのような接種が続いていたと聞く。全国民に、ワクチン接種を普及させるために立案することの大事さは言うまでもない。そして、それを遂行するには、末端の各自治体での休日を返上した業務に支えられていることも大事なことである。さらに加えて、その内実は、人間の深奥にあるもっと貴重な、事や物に働きかける100万回の気持ちに支えられているのではないか、ということを思った。取りも直さず、自治体職員が送信した「5時35分」がそれを物語っている。