診療の中で
あるインフルエンザ風景から
2015年01月16日
今年になって、のどの痛みと37.3℃の微熱とを訴えた大人の患者さんが来院した。患者さんは診察室に入るなり以下の話を始めた。知人が37.8℃の微熱にもかかわらず、インフルエンザのテストをしたところ、陽性だった、自分は更に低い熱だが、念のためテストして欲しい、と。患者さんの希望通りテストしたところ、A型インフルエンザだった。患者さんは、普通にのどの風邪をひいたと自己診断してやって来た。微熱であるから自覚症状も軽く、まさか、の診断だったようだ。
インフルエンザを鼻腔のぬぐい液で検査できるようになってから久しい。この患者さんや、その知人に限らず、過去に37℃台の熱しかなくても、テストで陽性を示した患者さんはいた。テストのおかげで、インフルエンザは高熱を出す病気である、というだけではなさそうだ、と考え直させられている。
改めて教科書を開いてみると、風邪の多くは、発症後の経過がゆるやかで発熱も軽度であると書かれている。これに対して、インフルエンザは、悪寒と39-39.5℃に達する発熱が突然始まると書かれている。教科書的には、やはりインフルエンザ=高熱、ということになるのだが、医院に普通の風邪症状で来られて、インフルエンザテストが陽性の人は、どのように診断したらいいのだろうか。
検査には false positive といって、病気ではないのに病気と判定してしまい、誤った診断をしてしまうことがある。微熱の患者さんは、インフルエンザだったのか、あるいは、false positive だったのか、ということは検討しなければならない。もちろん、私には出来ないことだが。
微熱の患者さんが false positive だったかどうかはともかく、テストが出来るようになってから、私の経験上、インフルエンザの症状は多彩で、インフルエンザ=高熱、ということだけではなくなった。これまで、インフルエンザを始めとした感染症を、人類の英知や生活環境を改善することなどで克服してきた。そこから学ばなければならないことは、ワクチンを打つか打たないか等を、日常生活にどう取り入れたらいいか、ということではないかと思っている。スペイン風邪が流行した大正時代と今とでは、私たちの感染症に対する身体の備えがちがっているのではないか、と思うのである。もちろん、病気をあなどってはいけないが、昔のように過度に恐れることなかれ、とも思うのである。