小山医院 三重県熊野市 内科・小児科

三重県熊野市 小山医院

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時世の粧い

懐かしい道

2024年07月14日

昨年末、奈良の山道の一部が崩落した。崩落の規模の大きさに加えて、地質調査の結果、深層崩壊の危険性があることから、長らく通行止めとなっていた。この道は、大阪を始めとした関西圏に行く縦断最短路であり、よく利用していた。ドライブが好きな私には、無数のカーブを用意してくれてもいる。しかし、通行止めの間は、県北部を横断している高速道路を利用せざるを得ず、その都度、約90キロ余計にドライブさせられるのである。

それが、崩落して半年後の先月末に仮の橋ができて、やっと交互通行ではあるものの、縦断できるようになったため、さっそく通ってきた。半年ぶりの道路、半年ぶりの景色。まるで旧い友に出会ったような感慨を抱いた。それもそうだ、私はかれこれ20年余、この道をドライブしていたのである。しかし、ここは2級国道であり、整備の点で1級国道より残念ながら劣っていて、至る所に劣化した「あかし」が露わになっている。このあかし、すなわち舗装の継ぎ目の段差や浅い穴ぼこ、これらを私は場所も数も覚えていた。数10キロにわたって、ほとんど覚えていた。それは、まもなく段差がある、身構えておかないと、という具合に。クルマが揺れるたびに、懐かしいという思いに満たされた。そのうち、旧い友という感覚を超えて、路面をいとおしく感じるようになり、何ともハッピーな気分で駆ったのである。この、道とクルマとの関係を誰にも感じて欲しくないという独占欲までもたげてきた。これは、思ってもみない自分の内の変化で、段差も穴ぼこも擬人化してしまった。しかし、この気分も、何故だかわからないが帰り道には失せていた。懐かしさは微塵もなく、半年前までと変わりなく、ごく普通のドライブ時間を過ごしながらの帰宅であった。

話変わって、メンデルスゾーンの音楽劇で知ったシェークスピアの喜劇「真夏の夜の夢」のことである。ここでは、森で会おうとする男女がいて、妖精が魔法を使ったり媚薬を使ったりして、劇が進行する。さて、劇のように真夏ではないし、夜に森に入ったわけではないものの、梅雨時に私は、久しぶりに勝手知ったる山道に入った。そして、まさかのハッピーな気分を味わった。そう、まさか妖精が魔法を使って、段差や穴ぼこを工夫したわけではあるまいに、そんなことを連想させられた。ドライブでしか得られないひと時であった。