小山医院 三重県熊野市 内科・小児科

三重県熊野市 小山医院

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カルテの裏側

老いて成長する

2015年06月13日

子どもが手にするキャラクターグッズの中で、アンパンマンは、古今抜群の人気がある。その仲間たちを合わせて、私は診察室に飾っている。それを眼にした1歳の子どもまでが、覚えたての言葉を発しながら興奮気味に指差しをする。それにしても、1年くらいの見聞の期間で、アンパンマンに興味を持つ回路が作られてしまっている。まるでそのような胎児教育をされたのではないか、と邪推してしまうような成長ぶりだ。もう少し年長になると、うちのと一緒、と言うこともあり、すでに身近なものとなっているようだ。

さらに年長の子どもは、興味の対象がおもちゃに限らなくなる。私がカルテ入力していると、何をしているの?と神妙にたずねてくることがある。カルテ入力という作業に真剣に向き合っている私の姿勢が、彼らを惹きつけたのだろう。その態度は、未だ自分の世界にはない人の営みを発見しつつある、というそれである。ある子は、自宅で電子カルテに入力しながら診察する真似をするそうだ。旺盛な好奇心も瞬く間に身に着く。

さて、私は少し前に不注意で爪を傷めた。根元から剥がれた爪が、まもなく新たに生え変わってきた。その少しずつ伸びている先端の瑞々しさに、自分の爪ながら感心してしまった。還暦を過ぎて数年経った今、ともすると老いを悟り、身体にも精神活動にも限界を感じる。しかし、伸びてきた爪には生命の息吹がある、しかも年をとった自分にまでこんな成長がある、と見定めたことは、まさにけがの功名であった。

また、人生は喜ばせごっこ、という言葉を残したアンパンマンの作者、やなせさんの今わの際まで続けた活動に思いを馳せた。子どもたちの笑顔を見るのが大好きです、という言葉も残されていて、最期までご自身が成長されたのではないだろうかと思うのだ。成長するのは子ども、とつい捉えてしまいがちだが、大人にもまだまだ成長の芽が見つけられる。

先日読みかじりしたのだが、精神医学者のユングが「成長と自己実現の可能性は、人生の後半に存在する」と述べている。もう年だから、ではない。