小山医院 三重県熊野市 内科・小児科

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音のこと

1オクターブを弾く

2014年11月24日

ショパンが作ったワルツは19曲あり、どれを聴いても、ああ、あの曲かと多くの人が思う曲ばかりである。そのうち、3曲ある作品34には、Vivace と記された2曲の速い曲に挟まれた真ん中に、Lento(ゆるやかに) と指定された曲が配置されている。愁いと希望とが交錯するこの曲に挑戦した。

冒頭は、低音に支えられた主題が左手に与えられている。同時に弾く右手はごく弱いタッチで主題を浮き立たせる。音符でいうと、主題はレ、ミ、ファ、ソの4音が繰り返される。この繰り返しの次に、すぐ上のラ、シ、ドが受ける、という流れを2度経て序奏が終わるという次第だ。たったこれだけの音符で、物憂い、と私は思うのだが、その気分が演出される。このあと次の主題に移る。ここは、霧が晴れて空がサッと見えるような移り様である。ここの移り具合を聴くたびに、このワルツの中で一番大事なポイントだと、私は常々感じていた。

移った主題の始めにショパンは、1オクターブ離れたミを弾かせる。最初の低い方のミは、アウフタクト、つまり強さを感じさせないよう弱く弾く。それは、次に弾く高い方のミに注意を喚起するための弱起であるのだが、弱い音だけに、むしろこちらの方が注意を要する。それだけではなく、先の主題が終わる際に、若干のリタルダンド、だんだんテンポを遅くして、この低いミに引き継がれているから、どのようなテンポで1オクターブを弾くかが鍵になる。

ここまでのことを私は承知していたのだが、実際にはどう弾いても主題同士がつながらない。ある日私の先生が、低いミは、リタルダンドした遅い速度を保ったままにしたらどう?とアドバイスしてくれた。つまり、この1オクターブの2音をミ、ミではなく、ミー、ミというようなテンポで弾きなさい、ということなのだ。このテンポを保って弾くことを会得して、ようやくつながった。

ここで、低いミを長く保って弾くことは、音楽表現のうちのごく一部のことに過ぎない。いや、このワルツ全体の中でも、だ。私は以前からこの1オクターブに注目していて、ここにこれがあるからこそ、この曲を聴き続けていた。しかし、その理由に弾いて初めて気がついた。このワルツは、これまで弾くよりは聴いていたい曲だったのだが、今は弾きたい曲になった。

身過ぎ世過ぎの三十有余年、ひねもす心音を聴取す。生来の音キチなるが故に此は悦びなり。されど、本意はピアノ音、エンジン音ばかりを傍らにと願ふものなり。

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